更年期障害の治療

更年期障害は女性ホルモンの減少によって生じるものですから、治療薬の第一選択は女性ホルモンを補うことです。わが国ではホルモン剤というと拒否反応を示す方がいますが、現在アメリカでは更年期以降の年代の方の30-40%くらいの方が、そして中流家庭以上の方のほとんどがホルモン剤の投与を受けており、30年前から行われている確立された治療法です。(日本ではいまだに薬局の方や、他の科の医師で誤解している方がいることは残念です)
現在行われているホルモン補充療法は、2種類の女性ホルモンを服用または、腹部に貼付する方法です。この女性ホルモンは卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2種類です。服用の仕方は大きく2つに分けられます。一つは手術を行いすでに子宮がない方の服用方法で、卵胞ホルモンを1日1錠連日服用または貼り薬を1日おきに腹部にはります。一方、子宮がある方は2種類のホルモンを使用します。
ホルモン剤の副作用を心配される方がいますが、そのホルモンの量はかなり少ないため、重大な副作用はありませんが、少量の不正出血をみる方がいます(すでに子宮を摘出している方はもちろん出血はありません)。しかし、これはあくまでもホルモン剤の服用による子宮内膜の反応によるものであり、心配するような異常出血ではなく、続けて服用するとほとんどの方は出血は止まります。
日本では、ホルモン剤と癌の関係を心配される方がいます。しかし、データをもとにした議論をしなければなりません。癌全体では癌が増えるということはありません。ホルモン補充療法を行っている人は、子宮体がん、大腸がんになりにくくなることがわかっています。しかし、卵胞ホルモンだけを服用すると、子宮体癌になる率が若干増加します(先に述べましたように子宮がない方は卵胞ホルモンだけを使用しても心配ありません)。そこで、卵胞ホルモンと一緒に黄体ホルモンを服用すると、全くホルモン剤を飲まない人に比較すると5分の1にまで体癌になる確率が減少してしまいます(黄体ホルモンは体癌の治療薬としても使用されています)。つまり、ホルモン補充療法を行うことにより、最近、日本人に増加傾向のある子宮体がんになりにくくなるということです。
乳がんに関しては、まだ、結論は出ていませんが、最近は5年以上服用すると若干増加するということが言われています。過去に世界中でいくつも乳がんとホルモン補充療法の関係について調べた論文がありますが、女性ホルモン剤を服用すると乳癌になりやすくなる、と言う論文と、逆に乳がんになりにくくなるという論文は半数ずつなのです。少なくとも5年以内の使用には問題はありません。最近の110,984名という多数を対象者とした論文(2006年12月発表。アメリカの2002年のWHIの発表は26,000名)でも、5年以内の服用では乳癌は増加しないことが再確認されています。
5年以上服用した場合、アメリカのWHIの研究でも0.08%のごくわずかの増加であり、心配するほどのものではありません。ホルモン補充療法を受けて乳癌になるリスクは1.26倍との報告がありますが、たばこを吸っている人は肺ガンになるリスクは29倍にもなることを考えると、ホルモン補充療法のリスクは小さいと考えられます。
そもそも日本人に乳癌が増加しているというものの、アメリカ人に比較するとまだ半数です。また、卵胞ホルモンだけを使用している方は乳癌になりにくいという考え方も支持されてきています。
ホルモン補充療法を受けると体重が増加すると考えている方もいますが、体重の増加はありません(Am J Obst Gynec 2007年の論文)。むしろ内蔵脂肪などは減少するとされています。
ホルモン補充療法を行うに当たって、子宮がん、乳がん検診は受けるべきです。乳癌検診は40歳以上はマンモグラフィーが推奨されていますが、マンモグラフィーで全ての乳癌がわかると誤解されている方もいます。触診で明らかな乳癌がマンモグラフィーでわからないこともあります。日本では超音波診断法が普及しており、特に若い方ではマンモグラフィー以上の診断率とされています。しかし、マンモグラフィーも超音波も診断に不得手な乳癌があり、両方をやることが診断率を上昇させます。
ホルモン補充療法を受けていると、寝たきりの原因の一つとなる骨折が減少することもわかっています。
更年期症状の改善はもちろんのこと、腟炎、膀胱炎などの泌尿器、生殖器症状の改善、骨粗鬆症の予防、治療、コレステロールの減少、動脈硬化の予防、ひいては心、血管系の疾患の予防のために、若返って、元気な毎日を過ごすために、ホルモン補充療法を受けられてはいかがでしょうか。