体外受精と人工授精

体外受精とは

1978年に世界で最初の体外受精児がイギリスで出生して以来、世界で年間十万人以上の体外受精児が出生しています。我が国でも東北大学で成功して以来、全国各地で体外受精が行われるようになり、年間約20,000人の体外受精児が日本でも出生しております。本邦の出生児の55人に1人は体外受精児であり、体外受精は決して珍しくなくなりました。

この体外受精が行われるようになってから不妊症の治療は飛躍的に進歩し、今までは子供を生むことをあきらめなければならなかった夫婦に体外受精という方法は新たな道を開きました。
では体外受精はどのような症例に対して行われるのでしょうか。
それはa.卵管が閉塞している人、手術などで卵管がない場合、b.精子の数が少ない場合、c.不妊症の治療を数年行っても妊娠しない場合などが対象となります。どのくらいの期間妊娠しない場合に体外受精に進むかは年齢にもよります。
また、体外受精による異常児の出産の確率を心配される方もいますが、通常の妊娠による異常児、奇形の発生率と差がないことが証明されています。
では、体外受精は実際にどのように行われるのでしょう。 従来から行われている一番基本的な方法は、まず、1.GnRHa剤である点鼻薬を採卵の前の周期から開始し、多くの卵子を採取するために、月経開始後排卵誘発剤の注射を10日前後ほど行います。2.卵子が入っている卵胞が成長し、大きくなったらHCG注射を行い、翌日卵子を採取します(当院では午後2時ころに採卵しています)。軽い麻酔の後、超音波診断装置で腟の方から卵胞を見ながら針で穿刺して卵子をとります。採取する卵子の数にもよりますが15分ほどで終わります。3.次に精子の調整を行います。受精可能な良い精子を選別し、精子と卵子を一緒にし培養します。4.翌日受精が確認されれば、さらに翌日か翌々日に受精卵を子宮に戻します。これも数分で終わり、痛みはありません。当院でも体外受精を希望される方が増えています。詳細は受診していただければご説明いたします。
現在(2016年6月)、税込で採卵86,400円、受精卵培養(0-3日間)97,200円、胚移植(2-3日目)54,000円、合計237,600円(1回の採卵で、かつその周期に全ての胚を移植した場合の料金)となっております。
その他、受精卵凍結(5個まで) 税込43,200円、顕微授精技術料(5個まで) 税込43,200円、胚盤胞培養(4-5日間)  税込21,600円、アシストテッドハッチング 税込10,800円 2段階胚移植 などが追加になることがあります(予告なしに上記料金は変更になることがありますのでご了承下さい)。

体外受精の成功率

体外受精の成功率は1周期当り25-30%程度とお考え下さい。非常に正確な統計とされている最新(2007年)のヨーロッパ各国の合計では、1回の採卵当りの妊娠率は26.1%となっております。女性の年齢などにより個々人の率は変わります。高年齢の方は成功率は低くなります。
各施設の 成功率を比較することは難しいこともご承知おき下さい。すなわち、若い人に多く体外受精を行う施設では成功率は高くなりますし、体外受精まで必要のない例に対しても、体外受精を行えば、当然成功率は高くなります。例えば人工授精をあまり回数を行わず、体外受精に進めば、本当は人工授精でも妊娠するような方も体外受精成功例に入っているので、結果的に妊娠する率は高く出ます。また、妊娠する可能性が低い例は行わないという方針であれば、これも妊娠しやすい例だけ体外受精を行うことになるので、成功率は高くなります。ですから成功率の数字は、各施設でどういう例に対して体外受精を行っているのかということで、変わりますので、施設間の成功率の比較は本当は当てにならないのです。
以上のように、体外受精1回では妊娠しない方の方が多く、70-75%の方は1回では妊娠しないということになります。私たちは当然1回目で妊娠するよう全力を上げてお手伝いしますが、残念ながら成功率は上記の数字です。1回目で妊娠しなかった場合、非常に落胆される方が時にいらっしゃいますが、世界的には成功率は上記の数字ですので、再度頑張っていただきたいと思います。ちなみに、夫婦とも異常がない場合に、排卵日に性交したとしても妊娠する率は周期あたり25%とされており、体外受精の成功率とほぼ同数字です。

染色体異常

参考までに、体外受精の場合、少なくとも50%の胚が染色体の数的やその他の染色体異常が認められるとされています。北アメリカでは35-37歳の体外受精を受けた女性の胚で70%が染色体異常であったという報告もあります。さらに40歳以上では 82%に達するという報告もありますし、妊孕性が確認されている比較的若い女性の卵でも50%以上の胚で染色体異常が認められています(参考論文:Fertility Sterility 2007年87巻3号)。
染色体異常がある胚は妊娠までに至りませんので、顕微鏡で見た目にはいい受精卵であったとしても、実は半分は染色体の異常があり、妊娠につながらないという結果になります。異常のない胚が妊娠に至りますが、児の異常の発現は少なく、通常の妊娠とほとんど差はないことが分かっています。
以前は人工的に操作する体外受精に対して批判もありましたが、現在ではほとんど聞かれなくなってしまいました。これは手技的にも確立されてきたことが認められ、体外受精によつて恩恵を受けた人が多くなったためと思われます。また、1978年に世界で最初に体外受精に成功したイギリスのエドワード教授は、2010年のノーベル生理学賞・医学賞を受賞しました。このことは成功当初は批判の多かった体外受精が安全性の確認された手技であるということが認められたためだと思います。

人工授精

体外受精と間違える方がいる方法に人工授精があります。人工授精は古くから行われている方法で、精子を直接子宮の中に入れる簡単な方法です。当院の方法はより元気な精子を選別し、不用な白血球や細菌を除去した精子を注入しています。精液は自宅で採取、もしくは当院の採精室で採取してもらいます。人工授精は頚管粘液の分泌が悪い人、精子の数が若干少ない人、不妊治療を行ってもなかなか妊娠しない人などに行います。人工授精はこれらの人の妊娠率を上昇させますが、ご主人の理解がないと行えません。精子が非常に少ない場合、体外受精になることが多いのですが、当院では精子を数回分凍結し、それらをまとめて融解し、人工授精を行うこともあります。人工授精の当日にご主人の都合が付かない場合にも前もって凍結しておいた精子による人工授精も行っています。しかし、人工授精は卵管が閉塞している場合や精子の数が非常に少ない場合には適応ではありません。